第4回
「附け打ちについて」

ゲスト:山崎 徹さん
嶋之亟さんよりお話をいただいた時・・・は、「私なんかでいいのでしょうか」と正直思いました。たった10年少しの経験でしかない私ですが、入ってすぐ現場に放り出され、経験不足を見せてはいけない、雰囲気に呑まれてはいけない、と人一倍、歌舞伎をみてきたつもりです。今回はこの10年の一区切りのつもりで書かせていただきました。桜喜屋さんには、お忙しい中お話を頂きまして、本当に感謝いたしております。ありがとうございました。

山崎 徹
山崎徹・プロフィール
1969年2月28日生まれ。B型。岡山県倉敷市出身。(株)パシフィック アート センター 第三事業本部演出部 所属。
中学の時に、中村勘三郎丈出演の、こんぴら歌舞伎で初めて歌舞伎を観る。19歳から香川県高松市で大道具を始め、平成元年上京。附け打ちを志願して平成4年10月PAC入社、新橋演舞場に配属される。PAC渡邊 恒氏、金井大道具(株)の小倉 直一氏、小倉 実利氏に附けを習う。以来、附け打ちとして、国立劇場・浅草公会堂・三越劇場・日生劇場などの東京の大劇場公演のほか、国内・海外公演を含む巡業公演、厳島神社・姫路城・岡山城・壷阪寺などでの野外歌舞伎公演、御園座・松竹座・南座・博多座・金丸座、などの地方大劇場歌舞伎公演に参加。特にここ数年は、シアターコクーン・平成中村座などの中村勘九郎公演、若手の歌舞伎公演を中心に参加している。



附けとは何か(発生と役割)

○附け打ちの発生
 附けは、もともと役者さんのお付きの弟子が、担当していたようです。近年になって、大道具が受け持つようになりました。現在は、劇場ごとに附け打ちがいますが、以前は、役者に付いていたそうです。

○附けとは
 歌舞伎芝居、舞踊の中でその登場人物の動作や仕草を強調させることによって、歌舞伎独特の型を印象付けさせるために使われる、他の演劇にはない、独特の演出法です。
 舞台上で、「芝居に音を付ける」ことから、「附け」と言われます。また「附け」を担当するものを附け打ちといいます。

 近年では、大道具方が附打を受け持っています。また関西歌舞伎では狂言方と呼ばれる舞台進行係が、附けを打つこともありますが、関東より専門の附打が出向くことがほとんどです。
 附けは、物語りの最も重要な場面や、芝居のキーポイントとなる場面に舞台に出て附けを打ちます。
 また、附けは、登場人物に対する表現以外にも、大道具転換や小道具の仕掛けの印象付けにも使われます。
 附けは、役者とはもちろん、鳴物さん、長唄さん、義太夫方との関わり合いが深いんです。特に下座音楽には、芝居の進行上においても深くかかわっています。

○附けの大切な役割<芝居を毎日見据えること>
 裏方では、附け打ちが毎日一番よく芝居を見ているんです。芝居のきっかけや、仕掛けのタイミングの違い、御簾の上げ下ろし、時には、障子が外れた、刀が折れたなんてハプニングを、担当の裏方さんに知らせることもあります。義太夫さんの三味線の皮が破れて、代わりを取りに楽屋へ走ったなんてことも何度かありました。台詞の間が違うなど、前から芝居を見ていないと気付かないことが、幕を開けるときの最終的な責任は、幕引きさん、芝居が開いてからの、監事役は、附け打ちなんです。このことは、附け打ちが大道具が担当するようになってから、重要とされることになってきました。

附け打ちの道具と服装について

○附け木
 材質は、白樫(しらかし)の木を使用しています。寸法は、長さが、7.5寸〜8寸、幅が、1.5寸、高さが、1.2寸〜1.3寸です。これは基本的な寸法ですので、実際は使う人の手のひらの幅に合わせて、自分で微調整します。
 作る際に重要なポイントとして、お尻の下の部分を丸く落とします。これをしないと、軽快に打つことができません。そして叩く表面は、真平らでなければなりませんから、仕上げに、しっかりした「鏡」に紙やすりを貼り付けて、附け木を押さえつけながら削っていくんです。出来あがった表面は、二つの木がお互いに吸いつくようでなければなりません。白樫の木は、十分に乾燥させたものを使用しまして、2本とも同じ原木で、しかも縦に繋がったものから二つに切って取ることが、重要です。これは、二本の木目を揃えるためです。つまり、同じ響きに木であるためでなんです。

○附け板
 材質は、日本の代表的な、欅(けやき)を使用しています。寸法は、縦横は、基本的に決まりがないのですが、幅が狭いと音の巾もせまくなりますし、持ち運び安さの寸法からして、たて1.2尺、横2.1尺の寸法がちょうど良いとされています。厚さは、一番重要で、最初は、8〜9分くらいから使い始めて、徐々に削ってゆきます。5分くらいになると、強く打った時に地舞台を叩いている様な音がしてくるんです。そうなるとお役目ご苦労様。となるわけです。その間平均して、2年です。木の質によって違いまずが、だいたい6分くらいが、一番打ちやすく、良い響きがします。附け板は、最近まで、欅の中でも心材と呼ばれる、赤みの部分だけを使用していました。しかし、コンクリートを多用した、近年の劇場の構造上、板は高音の響きのあるものより、低音のズッシリとした響きを持つものを求めるようになりました。そこで辺材と呼ばれる、白身の部分の板も頻繁に使用されるようになりました。いずれにしても、乾いた音がしなくては、附けの音にはなりませんので、切り出してから、10年以上は、寝かせて十分に乾燥させたものを加工して、使用するのです。

○衣裳
 附け打ちの衣裳は、上衣が、黒着流し、下衣は、仙台平模様のたっつけ袴、黒足袋、草履、といった格好です。衣裳に決まりがあるのかは不明ですが、私は、袴の模様などはいろいろあって良いのではないかと思います。国立劇場の附け打ちは、黒の着流しのみです。下衣は、黒のタイツなどを履いているようです。

附けの種類と用法について

 附けの種類には、大きく分けて2種類あります。
 1 動作や仕草の表現<現実音>
 2 型、力の表現<効果音>
 またそれらの打ち方を組み合わせて、人物が争う様子「立ち廻り」に附けを入れてゆきます。

1 動作や仕草の表現<現実音>
 この中にも「駆け出し」と「アシライ」の2つに分けられます。駆け出しとは、文字通り、人物が走る様子です。役によって、立役・若衆・女形・老け役・子供衆と打ち分けます。また狂言の種類(時代物・世話物・舞踊)によっても、打ち方がそれぞれ違います。例えば、仮名手本忠臣蔵七段目「一力茶屋の場」で、寺岡平右衛門が、妹のお軽を斬りつけようとする場面。お軽が逃げだす「駆け出し」と、それを追いかける平右衛門の「駆け出し」は、女形と立役で、打ち分けなくてはなりません。アシライとは、仕草の総称で、駆け出しを含めた、人の動作を強調します。よく使われるのが、大切な物を落とす場面。手紙や、刀の鞘、簪など、後々の芝居に関わってくるため、または、そのきっかけとなるために、本来は音のあまりしないものでも、印象づけさせるために音を附けます。先ほどの「一力茶屋の場」でも、由良之助が大切な手紙を読んでいるのを、お軽が二階から、手鏡越しに覗き見てしまう場面。体を仰け反って見ていたお軽の結い髪から、簪が抜け落ち、気付かれてしまう。この時、附けを入れてやることによって、由良之助を演じている役者自身が気づく様子が強調されます。アシライにはその他に、

  おこつき(つまずくこと)
  礫<つぶて>(物を一揆に投げること)・・・石、槍、小柄など
  気合い(目覚めさせる)
  群集の争いごと、小競り合い(立ち廻りではない)
  人を斬る、突き刺す、物を切り落とす、衣服を切り裂く、
  壁を壊す、穴を掘る、埋める、崖から谷や海に落ちる、雪山が崩れる、水中を泳ぐ

などなど、日常的にありうる動作に音を附けてやることによって、歌舞伎の芝居に溶け込んでいくのです。

2 型、力の表現<効果音>
 現実には、音が発生しない動きを、附けの音で表現しています。歌舞伎独特の効果音といえます。これにも、大きく分けて「力強さや心情の高まりを表す」ものと、「独特の解釈による表現」の二つがあります。力強さの表現の代表的なものとして、

 
○見得
  目を寄せて顔を大きく引付けます。石投げの見得、天地の見得
 ○踏み出し

  大きく片足を前や横に踏み出します。見得に付属することが多いです。
 ○なし割り
  大きく両足を同時に開き踏み込みます。これも見得に付属することが多いです。
 ○力足
  両手両足を使って大きくゆっくりと前に前進するような形です。
 ○打ち上げ
  体全体を使って表現します。力強さの最骨頂です。

があります。これぞ歌舞伎!!!と呼ばれるものです。勧進帳の石投げの見得、幕外の打ち上げ見得、鳴神の不動の見得、幕切れの打ち上げ見得は、附け打ちとしては、最高の見せ場になります。これよりさらに様式美的要素の濃いものとして、独特の解釈の表現があります。

○飛び六法
 手足を振り上げて、物凄い勢いで走っていく様子を表します。殆どが、花道の引っ込みに使われます。車引の梅王丸の引っ込み、鳴神の鳴神上人の幕切れの打ち上げ見得からの花道の引っ込み、義経千本桜・鳥居前の源九郎狐の狐六法、宮島のだんまりの丹前六法などがあります。また、勧進帳の幕外の飛び六法は、舞踊的要素を残したいために、附けは入れないことになっています。
○韋駄天
 駆け出しに比べ、早く長い距離を走っていく様子を表します。「御存知鈴ヶ森」の飛脚のでがあります。三味線に韋駄天の合方というのがあります。
○聞かせ
 遠くから人が走ってくる様子を役者に気づかせるために打ちます。始め、3ッだけ打ちます。それから一瞬、間を置いて、駆け出しを打ちます。東海道四谷怪談「淺草の場」のお岩の出。
○人形付け
 人形ぶりの演技に合わせて、人形が走り出す様子を表します。「櫓のお七」「日高川」などに使います。義太夫三味線に合わせて打ちます。
○さわり打ち
 義太夫狂言の中で、義太夫の節に乗って打つ、打ちかたです。「妹背山婦女庭訓 三笠山御殿の場」の、金輪五郎と力者、「毛谷村」のお園とからみ、などがあります。
○連理引

 妖術や霊力によって、人物が操られている様子を表します。「かさね」の幕切れの与右衛門の引き戻し、関の扉の下の巻で、関兵衛が、小町桜の精に操られる場面などがそうです。
○つなぎ打ち
 立ち廻りに使います。立ての一つ一つに反応していて細かく音を附けてしまうと、忙しなくなってしまい、立ち廻り全体大きく見せる為に、挿入します。時を刻むように等間隔で一打ずつ打ちます。大立廻りには、必ず入れます。
○三つ打ち上げ
 立ち廻りの型の表現方法で舞踊劇に多く使われます。「吉野山」の忠信と花四天、「三段目落人」の勘平と花四天の所作立が代表的です。これは、立ち廻り中のあるきっかけから、つなぎ打ちで打ちながら、決めの型で、三拍子のリズムで三打して締めくくり、見得となるのが一般的です。

 以上のように、型・力の表現は、演技と音が一体となって初めて伝わるものばかりで、動きも、音も、其れだけでは、何を表現しているのかが、判りません。歌舞伎独特の表現方法です。
 これら二つを組み合わせて、立廻りは構成されています。この構成のよしあしが、附け打ちの魅せ所の一つです。

附けの打ち方

○座り方
 板を前に握り拳一つ分あけて、正座をします。正座の仕方は、個々まちまちで、お尻をべったり付けている人もいます。私は、自然に座っていましたが、足の痺れを考慮して、長い時間の際は最近では、合びきを使用しています。














○打ち方
 両手に附け木の重心部分を軽く持ち、親指・中指・薬指の三本で握ります。あとの指は添える程度で、手のひら全体で握ってはいけません。手と木との隙間を作ることで、そこから附け木の響きが生まれてきます。そして肩幅の間隔に構えます。そして、片手ずつ、半円の円弧を描くように、耳の位置まで振り上げて、そのままの軌道を保って、振り下ろします。木は必ず丸く削ったお尻の部分から落とすようにします。この時、左手から打ち始め、右手でうち終わるようにします。これは、下座音楽のかかりや、上げのきっかけが、附けの打ち始めや、見得に関係していることが多く、役者が見えにくい時などもあり、舞台の反対側にいる、動きがよく見える附け打ちを頼りにしていることが多いんです。ですから、こちらも、打ち始めと終わりは、同じ手でと決めています。
 打ち方の心得として、大きく、小気味よく、きっぱりと、打つことが大切です。ベタベタとした、打ち方は、俳優さんが一番嫌います。世話物の暗い芝居でも同じです。そしてなんといっても一番大切なのは、リズムです。リズム感をつけることは重要ですが、洋楽のリズムになってはいけません。歌舞伎のリズムを身につけることが一番重要です。

附け帳について



 これは、附け打ちさん皆が書いているとは限りませんが、私は附けのきっかけを書いた「附け帳」なるものを書きます。これは、ちょうど竹本の床本(朱本)と同じようなもので、きっかけの台詞や唄を、その前後から書き込んだ、いわば、書き抜き帳です。稽古の前に、あらかじめ作って置きまして、鉛筆で軽く、「見得・駆け出し」などを簡単な記号で表して、きっかけを記しておきます。また「風音・雨音・ドロドロ」などの鳴物の種類なども分かる限り書いておきます。そして附立〜総ざらい〜舞台稽古までに決まったことを、書き足して、初日を迎えます。竹本さんとは違い、本番中に見ながらということは出来ませんから、初日前夜に少しおさらいをします。台本を追って自分で書きますから、稽古前からある程度、唄や台詞を覚えることができで、いい勉強になります。そうして千穐楽までに、変更箇所を書き足して仕上げます。今後の資料に、演目ごとに分けてとってあります。

附け打ちの苦労

○附け打ちになるまでは
 現在の附け打ちは、大道具の受け持ちです。ですから、劇場で、大道具として働いているうちに、附けを打っている先輩の姿が、自然と目に入ってくるんです。そこで、自分から希望するか、先輩に半ば強制的にやれといわれるかは、まちまちですが。練習する場は、風呂場・トイレ・電車・車の中・・・どこでもいいんです。常に膝の上で、リズムを刻むんです。まずは、リズムを身に付けること。音楽的センスは必要だと思います。三味線や鳴物さんのリズムに合わせて唄に合わせてという部分は多いですから。そして、音が出せるようになることです。持ち方や打ち方を教わって、練習していくうちに音は割と早く、一ヶ月もすれば、出るようになるんです。でも附けの音にしていくには、そのリズムを身に付けないといけません。終演後や出勤前の舞台で練習するには、時間が限られますから、そのときは、まさに総ざらいみたいなもの。誰もいない舞台でも緊張するものです。先輩に見てもらって、見込みがあるようなら、打ち方を教わって、1〜2年ほどたつと、少しずつ実際に打たせてもらいます。私が始めて打たせてもらったのは、浅草歌舞伎での橋之助さんの「雨の五郎」でした。もう、緊張したっていうもんじゃなかったです。附け場に座ったとたんに、附け木が手の汗でびっしょりになっていくのが分かりました。附け場と舞台裏が、まるで別世界に思えたのを今でも覚えています。細かい打ち方は、実際に芝居に携りながら、覚えていきます。ただ、打ち方を覚えるのではなくて、何故、このように打つのがを、先輩について教わっていきます。演目の少ない巡業公演から始まって、通し狂言もの、襲名披露公演、顔見世興行公演などが、開けられるようになるまでは、10年はかかります。一人前に仕事をこなせても、これで良いという最終点はありません。いかに地道に、影で努力をして進歩していくか、だと思います。他の附け打ちさんの姿を見ることも重要な勉強の一つです。今でも、歌舞伎座や国立劇場の舞台稽古に、時間のある限りよく見に行っています。

○音の違い

 附けの音は、劇場によって全く違いますから、巡業公演、東京公演を問わず、附け板は4〜5枚、附け木は3セット持っていきます。それから響きをよくするために、板の下に布を敷きます。普段は木綿とフェルト布の2種類を使い分けますが、さらに地舞台の状態が悪いときは、その下に4分〜5分の厚ベニア合板を敷くんです。附けの音は、半分は板と木が持つ響きで、もう半分は、劇場の響きなんです。いくら鳴る板でも、劇場の客席の構造、地舞台の木の種類、奈落の構造などによって、全く違う板で打っているみたいです。狂言によって出したい音がありますから、板・木・敷く布の選択は、慎重ですが、舞台稽古で良くても、本番で、お客さんが入るとまた違った音になりますから、初日から3日以内にキッチリ決めることにしています。巡業公演では一日一日が勝負です。大体、固めの板を持っていくと、高い音がでますから、音が立ちますし、大抵は対応できるようです。囲いのない劇場、例えば野外公演のときは、もうお手上げです。少しでも響く構造空間を自分で作ろうとして、板の脇に5寸ほどの仕切りを立ててみたり、下に敷く厚ベニアを下駄状にしてみたりしましたが、結局は音響さんに頼るしかありませんでした。野外ですと、響きが全くないから、自分でどれだけの音が出ているか分からないんです。音響さんには必ず、モニタースピーカーから音をかえしてもらうんです。現在も新しい、いろいろな劇場に行きますので、これはもうイタチゴッコです。

○附け場への出入り
 簡単なことなんですが、始めは、なかなかできませんでした。やはり舞台の上に顔を出している以上、気を付けなくてはいけません。出時は、基本的に役者が花道で演技しているときです。後は、芝居の進行上、役者・演奏者はもちろん、観客の視線を少しでも浴びないように、毎日同じ処で出るようにすることが大切です。

○強さと間
 先輩たちからは、常に「生き殺し」を付けろ、と言われます。つまり強弱をつけろということです。役柄、狂言の背景だけではなく、常にそうでないと、歌舞伎にならないよ、ということです。粋に打たないと江戸の附け打ちではないということなんです。

○附け打ちの心得
 附け打ちの心得としては、やはり、芝居の中味、役の性根を把握して感情を入れて打つことが もっとも大切なことではないかと思います。

○職業病とそのケアについて
 附けを打つ動作は、その姿勢からも判るように、体に偏った負担をかけています。膝・腰にくる疲労は、一般的以上で、特に肘から方にかけての故障に気をつけなくてはなりません。一番多いのが、腱鞘炎(けんしょうえん)です。その打つ動作から、肘から手首にかけてうける衝撃は、公演を重ねるに比例して、疲労も蓄積されていきます。腱鞘炎の予防としては、公演終了直後の、手首から手先にかけての冷却(2〜3分でよい)を毎日続けること。テーピングまたは、圧迫式のサポーターを常用すること。そして、朝の起床後のストレッチは、とっさの動きを必要とする附け打ちには、不可欠です。

これからの附け打ちのありかた

○附け打ちの現状とこれから
 附け打ちに従事しているものは、現在、歌舞伎座に4名、国立劇場に4名、私のように、外の巡業公演を担当しているものが3名、合計11名です。長年、後継者不足の時期が続いておりましたが、此処1年程の間に、2名希望者が出来まして、ひと安心しているところです。彼らも三年程修業を積み、徐々に現場を重ねてひとり立ちしていくことでしょう。この世界では、どこのセクションでもそうでしょうが、附け打ちとして重要な仕事の一つに、やはり後継者を育てることがあります。歌舞伎は生きている伝統芸能です。私達は、先輩達から、受け継いだ附けの技術を後輩に伝えながら、同時に、進歩している歌舞伎の芝居に対応していかなくてはなりません。勘九郎さんのコクーン歌舞伎・平成中村座・歌舞伎座での野田英樹演出の芝居、猿之助さんのスーパー歌舞伎・21世紀歌舞伎組、橋之助さんや染五郎さんによる新しい歌舞伎の復活などなど、常に新鮮な空気を取り込もうとしている俳優たちが、今たくさん出てきています。歌舞伎の伝統を守りながら、一方では壊していくことが必要なんです。それが、進歩なんだと思います。

○附け打ちの集まり会を設立しました
 ここ数年、歌舞伎の公演は年々増え続け、少人数で、各公演をこなさなければいけない状況にあります。このことが、個人で悩み考え、個人で仕事をし終えてしまう附け打ちの現状を生み出してしまいました。これは、大変危険な状態であると考えました。そこでこれからは、附け打ちが定期的に集まって、情報や意見を交換し合い、技術面・精神面において、お互いを知り刺激しあうこと、横の繋がりを深めていくことが必要なのではと考えました。附け打ちの技術の向上、附けの重要性のアピールの為にも、と、私達は、2002年8月に「附け打ち委員会」という組織を立ち上げました。附け打ちの道具・服装・ケアについて・鳴物について・立廻りについて・先輩たちとの意見交換会などなど、年間8回ほどミーティングを開催することが出来ました。この活動は今後の附け打ちの向上に繋がっていくものと信じています。いままで内容、これからの活動、意見等をホームページを作成し、掲載することとなりました。2003年12月に立ち上げるべく準備を進めています。ご意見ご感想は、t-yamazaki@pacnet.co.jp PAC附け打ち委員会 山崎 徹まで、宜しくお願いいたします。

最後に・・・

 附けの技術は、歌舞伎にはなくてはならないものです。附けの音は、歌舞伎の代表的な音といっても過言ではないと思います。歌舞伎を観に来た、多くの観客に感動してもらえるように、技術を磨いていきたいと思います。今後の附け打ち委員会の活動も、お見逃しなく。

山崎 徹




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