片岡嶋之亟、私の生い立ち 第15回

 <土蜘蛛のこと>

 そういえば子供たちの遊びで、思い出したことがあります。近所の家の生垣には土蜘蛛(地蜘蛛)の巣がありました。苔の生えているところに穴が開いていると、子供の眼には地蜘蛛の巣だとすぐ判りました。大人の指ぐらいの大きさの細長い袋状の巣で、小さなストッキングのような鼠色のものをゆっくり引っ張り出すと、奥のほうにキュと小さくなった蜘蛛がいました。今思い返すと結構グロテスクな感じですが、子供の頃はこれも楽しい遊びの一つでした。現代の都会の子供には理解できない感覚なのかもしれません。今のように玩具の種類が豊富には無かった時代なのです。その代わり自然を相手に遊びと楽しみを造りだすすべは今の子供たちの数倍も身に付けていたことでしょう。
 話は戻りますが、この土蜘蛛遊びの体験があるので、歌舞伎の「土蜘」のお芝居に対する私の感覚は、ひょっとしたら他の方たちと違うのかもしれないと思うことがあります。歌舞伎の「土蜘」が出ると、私はこの地蜘蛛のことを思い出し、舞台の上の土蜘蛛の精とダブらせてしまいます。土蜘の筋隈を見ると、あの身を縮めて小さくなったグロテスクな地蜘蛛を思い出します。土蜘蛛というのは国家を平定、統一していく過程で、征服されていった地方豪族を象徴していると思いますから、地蜘蛛のイメージを重ねて見るのは、私の個人的な体験から来る、特別な感覚だと思います。昔に比べて自然と接することの少ない現代の子供たちが歌舞伎の「土蜘」を見た時に重ね合わせるのは、どのようなイメージなのでしょうか。コンピューターゲームの中のモンスターなのでしょうか。あるいは「犬夜叉」などのテレビのアニメーション番組に出てくる妖怪たちなのでしょうか。大きくなった時に、彼らに尋ねてみたい衝動に駆られます。



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