片岡嶋之亟、私の生い立ち 第16回

 <貸し本屋のこと>

 日が暮れるまでは屋外でひたすら遊んでいましたが、本もたくさん読んでいました。童話などは欲しいと言えば買ってもらえましたし、叔父や叔母のお土産として貰った物が多かったのですが、一時間ほどですぐに読んでしまっていました。雑誌は「小学○年生」というものしか買ってもらえないので、それ以外の漫画や劇画、そして読み物的な本を読みたい時は貸し本屋から借りていました。大西さんの所に毎週来る貸し本屋は、自転車の荷台の箱にいろいろな本を積んできました。すっかりお馴染さんなので、雑誌に付いていた付録をサービスとして貰えるのが楽しみでした。漫画の連載は欠かさず読んでいたのですが、ある時貸し本屋さんが来なくて読めなかったことがあり、私がすごく怒ったことがあったそうです。大西さんから聞いた話ですが、私は覚えていないのです。そういえば江戸時代の黄表紙本も、貸し本屋によって普及したという話を聞いたことがあります。たくさんの黄表紙本を持って、定期的に武家のお屋敷や商家に出入りし、奥様、お嬢様、腰元衆たちや奉公人たちといった、主に女性たちに本を届け、読み終わった頃別の本と交換するというシステムで、これによって購読者が飛躍的に増え、江戸文化を担った黄表紙本の世界は広がったそうです。
 私はといえば、定期的に来る貸し本屋だけでは飽き足らず、店舗を構えている近くの貸し本屋にもちょくちょく顔を出し、友達からも借り、漫画の置いてある近所の床屋へ行くと散髪が終ってからも小父さんにお願いして、漫画を読みふけっていました。「鉄人28号」「鉄腕アトム」「まぼろし探偵」「少年ケニヤ」というタイトルを思い出します。



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