片岡嶋之亟、私の生い立ち 第18回

 <朗読会のこと>

 何がきっかけだったのかは覚えていないのですが、ある日突然自宅で朗読会をしたいと思い立ち、手書きのポスターを作って玄関に貼りました。急に思い立ってそこまではやったものの、心の中でものすごい恥ずかしさと闘っていたのを覚えています。当時の私は人一倍羞恥心の強い子供でした。学芸会では前に出ることが恥ずかしいので、後ろの方で皆と一緒に演奏できる合奏ばかりに出演していたと思います。役者という人前に立つ仕事をすることになるなどということは、当時の私からは考えられないことです。役者となった今では自分の見せ場の時、客席が一杯で、盛り上がっていないと物足りないのです。人間は変わるものだな、とつくづく思ってしまいますが、何がきっかけで自分がそうなってしまったのか判りません。ちょうどツボに入ったのでしょう。テレビタレントでも私とおなじように昔は人前に出るのが恥ずかしかったと話す人が時々ありますから、自分だけではなかったと妙に安心してしまいます。
 そのときの朗読会には結局近所の子供が二人だけ来てくれました。朗読の間、とても興奮していたのを覚えているだけで、そのとき読んだ本が何だったか記憶にないのですが、お客さんが自分より幼い子供だったように思うので、昔話か童話だったと思います。そうでなくても、恥ずかしさ、照れくささがいっぱいで、自分の好きな幻想的なロマンの世界を繰り広げるなどという余裕は全くありませんでした。ひょっとするとそのころお気に入りだった、日本昔話の「おむすびころりん、すっとんとん」か「ちび黒サンボ」かもしれません。「ちび黒サンボ」はインドのお話で、三匹のトラが互いの尻尾を咥えてぐるぐると回っているうちにバターになってしまうという、今考えると奇想天外なストーリーですが、子供の頃、とても好きなお話でした。その中にマンゴの実や椰子の実の話が出てきたと思います。美味しそうな果物だなと思っていましたが、現実には食べることも無い、物語の中の存在のように思っていました。今日ではどちらも輸入されており、マンゴなどは大きいスーパーの店頭に並んでいるので不思議な気がします。



第17回へ    第19回へ
プロフィールに戻る